中医学には治療原則があります

2019.3.1

中医学には治則といって、長い歴史の臨床の積み重ねの結果、確立された治療手順の原則があります。

治則には2つの重要な原則があります。

 

1.治病求本・・病を治するには必ず本を求む

病気には必ず『症状』と『症状を作り出す本質』があります。

そこで症状を『標』といい、本質を『本』といいます。

「病を治するには必ず本を求む」とは、病気を治すには必ず病気の本質となるものを探らないといけないという意味です。

病気の本質を見極めた後、それを除去するためにさらに5つの手順があります。

1)扶正ふせい

病気が正気の不足でおこる虚証のときは正気を補う扶正が治則となります。

正気とは体を維持するために不可欠なもので気、血、津液、精、臓腑や経絡の働きのことです。

2)去邪きょじゃ

病気が邪気によっておこる実証のとき邪気を取り除く袪邪が治則となります。

邪気とは六淫の邪(風、寒、暑、湿、燥、火)、病理産物である痰湿、瘀血などのことです。

3)攻補兼施こうほけんし

正気不足と邪気の停滞が同時におこる状態の治則となります。

扶正と袪邪を同時におこなうことです。

例)関節痛の原因に風寒湿の邪気と臓器の機能低下がある場合、風寒湿の邪気を袪邪しながら補肝腎などをして同時に扶正していきます

4)急なれば標を治す

緊急の症状がある場合は早急に症状の改善をはからなければいけません。

まず症状を改善(標を治す)させ、その後、症状を作り出した本質を治します

例)脾には血が血管から漏れないようにする統血作用がありますが、その失調による出血の場合、まずは早く止血をおこないます(標を治す)。その後、脾の統血作用を回復させていきます(本質を治す)

5)先表後裏せんぴょうこうり

表証と裏証が同時にある場合は裏証の存在を考慮しながらも先に表証を治します。

例)元々、気虚(気の不足)の人が風邪をひいた場合、先に表証である風邪を袪邪して治します。その後、裏証である気虚に対して気を補い扶正していきます。

 

2.地域、季節、人により治療が異なる

地域性、季節、個人差を重視して適する治療をおこなうことを大原則とします。

1)地域性

地域が違えば温度、湿度、生活習慣、食生活も違ってきますが、これらの違いは体にも大きく影響しています。

日本の気候は湿度が高く、食事は生ものや冷たい飲食を好む傾向にあります。このため日本人は中国人と比べると脾の働きがとても弱い(胃腸が弱い)と言われています。

2)季節

季節の移り変わりや四季によっても体に少なからず影響を与えています。

例えば冬と夏の風邪では同じ風寒邪によるものでも使う漢方薬が変わる場合があります。風寒邪は発汗させて外に邪気を袪邪します。寒い冬は汗孔が閉じているため、より発汗させる必要がありますが、暑い夏は汗孔が開きやすく軽い発汗力を持つ漢方薬を使います。夏に冬のような発汗力のある漢方薬を使うと発汗しすぎて汗が止まらず、気や津液を消耗しすぎてしまう可能性があります。

3)人(個人差)

人は父母から受け継いだ先天の素因(先天の精)が違います。また生後の生活環境、生活習慣の違いなどによってもひとりひとりの体質は全く異なります。

一人の一生をみても成長過程、環境変化、生活習慣の変化によって体質は変化していきます。特に女性は妊娠、出産時の体質変化は勿論、毎月の月経、排卵などでも微妙に体質が変化します。

 

少し難しかったでしょうか・・でも、中医学の治療原則はとても大切な部分。

症状を抑えただけでは治ったとはいえませんので、必ず病気の本質を探っていきましょう。

西洋医学の治療は症状を治す(標治)であるといえます。

西洋医学だけでは病気の本質を改善していくことは難しいです。本質を改善させる術がないからです。

本質を改善していくことは中医学ならではといえますね。